「悲しき郵便屋」(横溝正史)

楽譜を使った暗号による恋文の妙

「悲しき郵便屋」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短編コレクション①」)柏書房

「悲しき郵便屋」(横溝正史)
(「横溝正史探偵小説
  コレクション①」)出版芸術社

「悲しき郵便屋」(横溝正史)
(「恐ろしき四月馬鹿」)角川文庫

郵便局員・伊山は、
自分の配達受持区域に
住む女性・綾子に恋をする。
彼は彼女あての郵便物に、
楽譜だけが記された
不思議な手紙が何度も
混じっていることに気づく。
彼はそれが暗号を使った
恋文であると考え、
その解読を試みる…。

おそらくは葉書でしょうが、
配達員がその文面をしげしげと眺め、
さらにはそれを写し取るなど、
現代であれば当然法律違反なのですが、
大正15年の当時は
どうだったのでしょうか。
横溝正史の初期の短篇であり、
暗号解読のミステリです。

【主要登場人物】
「私」
…前文の語り手。
「僕」(服部健作)
…本編の語り手。「私」の友人。
 伊山省吾の一件を語る。
伊山省吾
…郵便局員。恋する女性に届いた
 暗号を勝手に解読する。
曾我部綾子
…伊山が恋した女性。医者の娘。
 音大卒。

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本作品の味わいどころ①
楽譜を使った暗号による恋文の妙

初期の探偵小説は、
こうした暗号ものが
一つのジャンルとして
成立していました。
乱歩「二銭銅貨」
「日記帳」「算盤が恋を語る話」
さらに古くはポー「黄金虫」
その一歩上をいくのではないかと
思われるのが本作品の
「楽譜による暗号」。
種明かしされると
さほど難解ではないのですが、
着目の独創性はさすが横溝です。

40年ほど前に読んだ
旧角川文庫版では、
横溝のテキストしかありませんでした。
なんと初出誌には
視覚的に理解できるようにその図版が
掲載されていたのですが、
角川文庫版にはそれが
すべてカットされていたのです
(このあたりが当時の(今も)
この出版社の残念なところ)。
ただし初出の図版には誤りがあり、
出版芸術社版は
それを正した図版を掲載、
後発の柏書房版はその経緯を踏まえ、
あえて誤りを含んだ
初出自の図版を掲載するという
読者目線に沿った対応が
なされています。

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本作品の味わいどころ②
その暗号を使って恋心を伝える愚

本作品は暗号解読に終わりません。
伊山は自ら偽の手紙を作成し、
なんとか綾子の気を引こうとします。
現代でいえば「なりすまし」。
この時点で完璧に犯罪、
それもかなり悪質なのですが、
むしろ面白ささえ感じさせます。
ついには彼女を呼び出す
暗号文を送付し、
騒動が巻き起こるのです。
それについてはぜひ読んで
確かめてください。

本作品の味わいどころ③
入れ子構造を生かした最後の落ち

本作品は暗号解読となりすまし事件で
終わっていません。
本作品の本編は
「僕」=服部健作の話なのですが、
その前文として語り手「私」による
数行が置かれています。
読み始めると、その部分が不要に思え、
くどささえ感じます。
ところが最後にそれが生きてきます。
最後に記されているのは
「僕」による「私」の糾弾。
「僕」は探偵役であり、
「私」は伊山が密告された一件の
犯人役だったのです。
素敵な落ちです。

さて、この暗号もの、
乱歩の「日記帳」「算盤が恋を語る話」の
一年後に書かれています。しかも
恋愛が絡んでいる設定を考えると、
乱歩の向こうを張ったようにも
思えるのですが、
実際はどうだったのでしょうか。

※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ①恐ろしき四月馬鹿」
収録作品一覧
恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

※「横溝正史探偵小説コレクション
  ①赤い水泳着」
収録作品一覧
一個のナイフより
悲しき郵便屋
紫の道化師
乗合自動車の客
赤い水泳着
死屍を喰う虫
髑髏鬼
迷路の三人
ある戦死
盲人の手
薔薇王
木馬に乗る令嬢
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年

(2018.8.11)

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